きままにほろり

銀色のシールの貼ったゲームのネタバレ感想ほか、徒然なるままに。

天色*アイルノーツ

エルフとか半獣半人のセリアンスロープなどの異世界な人が住んでる浮き島だけど、生活環境としては燃料が少し違うだけで実世界とそんなに変わらないライゼルグという島を舞台にした物語。実世界=下の世界で挫折した教師である主人公がそんな不思議な島で出会う、生徒との触れ合いを通じて成長する過程を描いています。

教師という職業を身近に感じるかどうかによって、話への感情移入の度合いが変わってくるのかなーとは思いました(私は一応免許は取ったので分かる側の人間のつもり) 下の世界で教師として挫折し一度は辞めることを考えた主人公である透が、恩師の誘いで浮き島であるライゼルグの女学院に赴任するところから話は始まります。先述の通り異世界住人みたいな人がたくさんいるようなところなので、独自の統治機構を形成しておりひとつの国家として扱われています。なので日本上空に存在していますが往来は自由ではありません。

教師としての自信を失っている透ですが、教師として普段は優しく生徒の悩みには真剣に向き合う姿勢に生徒が思いを寄せていくのは当然で。 

進行 真咲→ティア→木乃香→愛莉→夕音→シャーリィ

 

真咲 立ち場の壁

教師である主人公に対して好意を抱くものの、思いを伝えることで迷惑をかけてはいけないと悩む真咲。そんな彼女に友人達がペットになればいいと提案したことで、透と真咲の不思議な関係が始まる。そんな折に真咲の父親が突然倒れて日本で入院することになり、しばらく店を閉めることになってしまう。不安で調子の出ない真咲を心配した透は、自分たちで可能な限り店を続けることを決めて真咲も元気を取り戻す。そんな過程で透に真咲への別の感情が芽生え、今の歪んだ関係を解消しようとするも真咲からは拒否され…。

教師と生徒という立場が全進行の中でも、二人の関係に一番重くのしかかってくる進行。両想いのはずなのにペットと飼い主という関係をどうして真咲が続けたがるのか、というのが物語の本筋となってくる。更にセリアンスロープという半獣半人故のある特殊性も関わってきて…。透の真咲をペットとすることに違和感を感じて現状を変える必要性を抱きながらも、なあなあで深い関係になっていく様は他の進行の後に見ると疑問を感じるかもしれない。ただそういうもどかしさも最後の結末を思えば、可愛らしい過程なのではないだろうか(この進行だけ取り出して結末を変えたら別物に変わっていたたに違いない)。

 

ティア 種族間の壁

一定の年齢になるとお見合いの儀式で相手を決めるというエルフの家に生まれたティア。そんな彼女も婚期を迎え儀式の招待状が来るのだが、これまで一切の恋愛経験がない彼女は自身の振る舞いが心配になる。そこで同じ職場の近しい異性として透に疑似交際を申し込む。疑似交際からどんどんお互いの関係は踏み込んでいき、いつしか二人は本気になってしまう。 しかし儀式までの期間限定という前提だった交際。更にティアの家は由緒ある家系である故に、純系主義という一面もあり人間である透の入る隙は無いと思われた…。

全ヒロインの中で唯一の年上ではあるものの、主人公とはほぼ同期ということなので姉感はない。エルフという特別な家柄というのが障壁となってくるが、普通の職場恋愛なので周囲の目というのは問題なかったり?

 

木乃香 時間の壁

更なる親交を深めようと、生徒からの提案により学院近くの湖畔で合宿をしていた透。そんな主人公の元に突然空からずぶ濡れで現れたのが木乃香であった。ライゼルグには元々彷徨人という伝説があったものの、あくまでそれは説話だったので当初は皆がその出現に驚く。ただ島には受け入れを前提とした法整備が整っていたおかげで、生活面で困ることはなく皆ともすぐに馴染む。 しかし記憶もない木乃香の出自について透が無視出来るはずもなく、知り合いを頼って調べようとする。木乃香はそんな透に何か恩返しがしたいと試みる過程で、二人の思いは近づいていく。果たしてどうしてこの地で二人は出会うことになったのか…。

このブランドでは史上初の肌が茶色いヒロイン。過去作で同じような色のキャラが出たような例はあるが(ExEの紫織)、ヒロインとなったのは本作が初となっている。急に島に落ちてきて記憶喪失ではあるものの、日常生活を送る分には問題ない(そうじゃなかったら物語として成り立たない)。自分の名前を毎回言うところにクドさを感じるかなーというところ以外は、普通の他のヒロインと変わらない印象。

 

愛莉 学力の壁

他の学生がただの教師と生徒という関係なのに対して、愛莉だけは面識のある親類ということではあるものの長年会っていなかったことで他人より溝は深い。お互いにどう接すればいいか迷った結果、悪循環になっていてその様子はまるでコントでも見ている

よう。 愛莉には親戚である透に対してどこかしら慕う感情があり、同じ学園で暮らす中でそれが恋へと変化していく。考え過ぎて空回りする愛莉への対応に主人公も困るが、愛莉の思いを認識して彼女のことを優しく受け入れる。他人と比べて卑下する愛莉は自分がライゼルグにいる資格があるのか悩み、成績も低下していき彼女の元担任からは戻ることを勧められる。そこで下す彼女の決断は、透はそれに対してどうすのか…。

他の進行では透に関する相談役を担うようなしっかりした印象である彼女だが、自分の進行ではかなりのへっぽこ具合を発揮する。ひたすらに空回りする様子はまるで芸人のようで、見ていられないような場面もあるが一度決めると一心に努力する真面目な一面もある見守りたいヒロイン。

 

夕音 ハードル

拾った動物を世話するために野宿生活をしていたのが祟って、体調を崩してしまった夕音を世話した透。そんな主人公に夕音は何か報いたいということで身の回りの世話を申し出る。夕音の圧に負けた透はしぶしぶ夕音に世話されることを期間限定ということで受け入れ、二人の微妙な暮らしが始まった。そんな生活が続く中で夕音は透への恋慕の感情が強くなるが、付き合うことで透に迷惑を掛けてはならないと自分の思いを押し殺す。ただ思いは強くなっていく一方で…。 そんな折に病弱な夕音の父親が倒れて入院したとの一報を聞き夕音は日本へ戻ることになる。戻った彼女は金銭面の負担を理由に透との関係、ライゼルグへの留学を辞めようと考えていたのだった。 そんな彼女を連れ戻そうと透はスポーツ留学という道を見つける。それは彼女が日本でやっていた棒高跳びで好成績を収めるということだった。主人公は入院先へ出向き夕音に告白し、好成績を収めることを条件に両親からも許しを得る。数年のブランクがある彼女が上手く飛ぶことが出来るのか…。

夕音進行は本人の決めたことは押し通す性格もさながら、夕音の母親も主人公の前に立つハードルとしていいキャラだと言える。棒高跳びというのを題材にしているのでスポコンに傾く可能性もあっただろうが、主人公と夕音の関わりに重きが置かれていたのは個人的に好印象だった。

 

シャーリィ 心の壁

 木乃香という彷徨人が現れてからどこか上の空なシャーリィ。その原因は幼少期に幻と聞かされた彷徨人が現れたことにより、近い時期に彼女の母親を亡くしたこととリンクしてトラウマが再発したことによるものだった。同人作家でもあり想像力が豊かな彼女は不安に陥るが、透が教師として彼女の周りは温かい実感のある世界なんだということを伝えて不安は解消する。 そんな親身になってくれる主人公にシャーリィは特別な感情を抱くものの、自分だけが特別じゃないと押し殺そうとするが思いは募るばかりだった。そんな折にシャーリィに絵画展への出展の誘いがあり、それを口実に透へモデルを頼むことになる。画家とモデルという関わりを続ける中で抑えきれなくなり、ようやく透も彼女の思いに気づき付き合うことになる。 新しい日々を送る中で日本から修学旅行に来ることとなり、それは主人公が一度は教師を辞めようと思う原因となった元勤務校であった。ライゼルグという地で自信をつけていたはずの主人公は、昔を思い出し元同僚の一言もあり思い悩む。そんな透の姿を見ていられないシャーリィはある計画を思いつく…。

特殊な浮島といえども過ごしてみればただの海外のようなもの、そんな島で繰り広げられるちょっと立場が違う普通の男女の物語。まとめると淡泊になってしまうけど実際には細かい感情の変化とかがあって、シャーリィを見ているだけでも楽しい。ヒロインだけではなく主人公の内面に一番切り込む進行。

 

ヴァンパイアと魔法少女の間に挟まれるとエルフやけもの娘が出る浮島を舞台にしているものの、基本的に描かれるのは普通の恋で物足りないと思う人もいるでしょう。ただそんな普通の恋の中にもハードルがあって、それをどう乗り越えていくのかがテーマとなっているように感じました。 学園物ということで教師と生徒という立場というのがありましたが、独特の苦悩や特待生という立場については知識などが無いと入りにくいのかなーという印象はありました。身近な題材であるほど自分の経験をベースに考え始めてしまうので、物語を進めていく上で阻害になるのでしょうか。

全体的に真咲との関係のもどかしさを除けば上手く普通の恋として落とし込めている印象があり、浮島を舞台にしている割に物語自体のファンタジー要素は少なくても心情描写の細かさで十分に成り立っているのではないでしょうか。特に主人公とヒロインのやりとりだけではなく、ヒロイン同士といった学生同士の掛け合いが時には漫才のようでテンポよく楽しめました。