きままにほろり

銀色のシールの貼ったゲームのネタバレ感想ほか、徒然なるままに。

DRACU-RIOT!

アクアエデンという吸血鬼と人間が共存する海上都市を舞台を舞台にしたラブコメといえば聞こえがいいかもしれませんが、終わってみれば社会派ゲームなのかなとも思えるもので…。海上都市で吸血鬼に襲われたことをきっかけに自身も吸血鬼になってしまったことで、その都市で暮らすことを強いられることになります。一般人ならすぐに吸血鬼になるようなことは無いのにどうして主人公は…などのきっかけから始まる島での生活。自警団的な組織で働く中で都市の抱える潜在的な危うさに触れていきます。

 進行 梓→ニコラ→エリナ→莉音→美羽

 

ニコラ進行を除くすべての話で、主人公がいわゆる吸血鬼喰いという異端であることが匂わされる。またその異名故に他の吸血鬼からは一線を画す存在(畏怖される存在)というのが物語の進行で効いてくる。

 

 共存への外圧

危うい海上都市という社会が外圧よって危機に晒される話。内部では歪な社会が成り立っていたとしても、外部から刺激が入ると一気にヒビが入ってしまい不安定になる様がやけに現実のようだった。吸血鬼と人間の共存は不可能とする勢力と吸血鬼を敵と見なし排除する狩人との間で、主人公の佑斗と梓は巻き込まれていく。

巻き込まれる中でバディから恋仲へと発展する二人だが、吸血鬼と狩人の生まれの娘というのは二人の仲以上に大きく横たわることになる。二人はその狭間で事件に立ち向かいながら、この都市においてどのような姿がよいのかを模索していく。特にサブキャラが他の進行に比べても物語の中で深い関わりをしてくる印象がある。 異端=潰すべき敵と捉える発想へ釘を打つような話なのかもしれない。

 

ニコラ 純粋乙女の恋

端的に言うならば厨二病。他のシナリオだと扱いが男のようなので(きっとわざと)下手すると、おまけとか見なかったら進行し忘れて攻略完了とか言いそうになるサブキャラ。でも蓋を開けてみると、自分の目標に実直な女の子でスタイルもどういう訳か抜群。天然イケメンの主人公に惚れてしまう素直ヒロインをただ眺めてるだけでもう充分。コウモリと幼女の掛け合いも漫才のようでテンポよく楽しめた。ただその中に他のルートで起こるような不穏を示唆するような一節もあり、本筋とは違い平穏とはいえ見えない不安定さというのが根底にある。

 

エリナ 異端故の好奇

他の進行ではただのセクハラ乙女という感じだけど、この進行ではどうしてこんな拗れたのかというのが明かされる。とにかく露出身というのを上手く活用した進行だなーという印象。研究によって人造が可能なのではないかという謀略に利用されていたエリナは、吸血鬼の血を求める体質で他人とは一線を置いていた。

そんな中である事件をきっかけにエリナの体質を佑斗が知ることになるが、佑斗も特異故にエリナのことを暖かく受け入れる。そんな佑斗をエリナが心身共に頼っていく過程で、エリナの体調に問題が生じてくる。その解決の為に露から研究者を受け入れることを条件に、かつての研究データも合わせて調べることになった(この研究者の人が後に裏の顔を見せるのかと思っていたけど、そんなことはなかった)。

研究の過程で本国に佑斗の体質が露見し研究対象として佑斗は連れ去られかけるのだが、その流れがまるでアクション映画を見ているようだった。 ここでは異端の二人と寮の友人たち、互いを知ることは怖がることではないというのがテーマだったのかもしれない。

 

莉音 特異同士の邂逅

主人公への恋心を意識して知恵熱を出しちゃうような純粋無垢な女の子との恋愛…から始まったと思うと、共通進行で事件となる吸血鬼向けのクスリの出処を追うことが主人公の特異さの解明へと繋がっていく。実は吸血鬼研究のなかで因子を組み込まれ、実際に吸血鬼として発現したのが佑斗と莉音の二人だったのだ。お互いの事情を知らない二人は互いに自分の特異が相手に不都合になるのではと思うが、結果として似た境遇ということでより仲を深めることになる。

二人は実験の元となった本物の吸血鬼喰いに共感する次代を担うものとして狙われることになるが、皆から畏怖される存在よりも共存を選び打ち勝つ。最後には二人で因子を相殺することによって、吸血鬼ではなく人間として暮らしていく。 人間の知への欲望、生への欲望の恐ろしさがあるように思えた。

 

美羽 理解と支え合い

ここまで捻くれた完璧なのは無いというくらいのツンデレ。拗らせ具合が解けたときの可愛さというのは、なかなかに他では出ないヒロイン像だろう(と勝手に思っている)。主人公の特質を受け入れた上での進行なので、どんな事件に見舞われようとも献身的に佑斗を支える美羽が印象的である。

美羽がいるとはいえ共通進行で追っていたクスリというのが、佑斗の能力を異常に発現させてしまう危険性があることがわかる。そんな中で吸血鬼への規制が厳しくなり都市内での不満が増加、本土からは都市の体力を削ごうとする動きで衝突が起きてしまう。本土勢力からの攻撃で海上都市最大の危機というところで、佑斗はリスク覚悟でクスリを摂取し美羽と共に危機を回避する。海上都市を外患から守る場面は都市のメンバー大集合で、ドラマのような見ごたえがあるシーンだった。 互いを信頼することの大切さというのを説いている気がした。

 

あくまで吸血鬼というテーマではあったものの、吸血鬼という設定を外国人に置き換えた瞬間に物語の世界が化けるような感覚になった。吸血鬼というテーマにしながら、本質的には差別や偏見などの社会的に訴えるようなものがある作品のように思える。

そのせいもあってか、シナリオはゲーム性故に恋愛要素も十分盛り込みながらドラマや映画を思わせるような展開だった(各進行の説明でもアクションとか書いてるし)。しかし物語性に引っ張られ過ぎないように、BGMのテンポ良さというのが重さを軽減して上手くバランスが取れているように感じられた。またヒロインが誰も優劣つけがたいくらいで、サブキャラも十分に個性が立っているところから、他にプレイした作品と比べても総合力では一番といってもよいのではと思える内容だった。